労働者のための労働法講座DIY教室
2. 労基法は、32条に対し、数多くの例外を定めています。
- 1)労働時間「算定」の特例
- ①事業場外労働の「みなし労働時間制」 (38条の2)
- ②「裁量労働」の「みなし労働時間制」
- Ⅰ.専門的労働型(38条の3)
- Ⅱ.企画労働型(38条の4)
- 2)変形労働時間制
- ①1ヶ月単位の変形労働時間制(32条の2)
- ②1年単位の変形労働時間制(32条の4)
- ③1週間単位の非典型的変形労働時間制(32条の5)
- ④フレックスタイム制(32条の3)
- 3)時間規制に対する直接的例外
- ①適用除外(41条)
- ②44時間制(40条)
- ③時間外労働(33条・36条)
そこで、以下、重要性が高く、かつ、問題頻度も高いと思われる事項について、論及し ていくことにします。
- ①「名ばかり管理職」はいませんか
- 32条の例外の第1が、41条の規定です。 この41 条というのは、その1号から3号に規定する者について、労働時間、休日、休憩に関する全ての規定を適用しないとする、とんでもない規定です
- Ⅰ.とくにその2号が、問題で、「監督若しくは管理の地位にある者」(一般に、「管理監督者」と表現されます)と規定しています。その結果、多くの企業では、管理職といわれる地位に就くや、「管理監督者」には当たらないのに、わずかばかりの手当と引き換えに、すべての時間規制を外し、時間外労働手当を一切支払わないという取扱いをしています(「名ばかり管理職」)。職場に、そんな問題はありませんか。しかし、先に書いたように、「労働時間」とは、「使用者(会社)の指揮命令下で行為してる時間」のことで、32条は、その時間数を1日8時間・1週40時間を上限とするというものです。とすると、41条2号の規定の意味は、「使用者の指揮命令下で行為する者」でない者には32条を外す、という意味に捉えられるべきものです。「使用者の指揮命令からはずれる」つまり、使用者から直接的な命令を受けて働くのではなく、業務量や仕事内容、労働時間管理等について、自分で決定できる権限を持つ者をいうと解されるべきです。会社の重役や、取締役等の、「会社と利益を一体にする者」という、相当に高い地位の者を言うとされています。ですから、「店長」の肩書きであっても、実際上、上に指摘した権限のないものは、「管理監督者」には当たりません。マックの店長や、量販店の店長は、これに当たらないとの判決があることは、ご承知の通りです。したがって、実質的権限は何もないのに、「長」の肩書きをつけただけで、「管理監督者」扱いにしていないか、厳格にみていく必要があります。
- Ⅱ.2号は、併せて、「機密の事務を取り扱う者」と規定しています。このの意味は、会社が外に知られては困る事項を扱う者という意味ではなく、上の「管理監督者」という地位の高い者と常に行動を共にする者で、したがって、会社のトップシークレットに接することになる者(たとえば、社長秘書のような者)をいう、とされています。
- ②労基法において「労働時間の算定の特例」に関してとくに、関係することが多いと思われる2つについて、お話しします。
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- Ⅰ.「事業場外労働」に名を借りて、労働時間計算がいい加減にされていませんか。
38条の2は、「労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。」と規定しています。これは、労働者が、会社の外で労働した場合には、彼がどれだけ働いたか、会社で把握できないので、彼の労働時間については、会社の1日の労働時間と決まっている時間(所定労働時間、たとえば8時間)だけ働いたものとして処理していい、という意味です。この規定が適用されるのは、労働者が、
イ)事業場の外で、労働に従事した場合で、かつ、
ロ)彼が何時間働いたか、会社で、確定できない場合、です。
ですから、数人で一緒に行動し、そのうちの1人が他のものの労働時間を把握する立場にあるような場合や、得意先・取引先に出かけて、何時から何時まで業務に従事していたか確定できる場合、常時、携帯電話で、会社の指示を受けながら仕事をしているような場合等は、これが適用される場合に当たらず、実際にカウントされた時間数が彼の労働時間とされます。
また、会社が、全く、労働時間を把握できない場合であっても、「その業務を遂行するには、所定労働時間内では無理だ」という場合には、「社会通念上、その業務を遂行するのに必要な労働時間」労働したものと処理されるべきことになります。「事業場外で労働した」からと行って、それだけで、実際働いた労働時間を切り捨てることを許しては、なりません。 - Ⅱ.38条の3、および、38条の4は、いわゆる「裁量労働」に関する規定です。きわめて複雑で、一方、東京労組関係においては、関係する局面は少ないと思われるので、ここでは、省略します。何かある場合は、個別相談で処理させて下さい。
- Ⅰ.「事業場外労働」に名を借りて、労働時間計算がいい加減にされていませんか。
- ③変形労働時間
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- Ⅰ.「変形労働時間制」の要件は、きちんと、満たされていますか。
「変形労働時間制」は、一般に、「総量規制」といわれ、法が規定する一定期間(1ヶ月、1年、1週間)の総労働時間が、その期間の法 定労働時間内に止まる場合には、1日の労働時間が8時間を超え、あるいは、1週間の労働時間が40時間を超えても構わない、という制度です。
これには、上に示したように、4つのものがありますが、ここでは、関連することが多いと思われる2つについて、説明することにして、他は、個別相談に委ねることにしたいと思います。 - Ⅰ.まず、「1ヶ月単位の変形労働時間制」といわれるものです。労働基準法32条の2では、「1ヶ月を平均して、1日8時間・1週40時間になるような定めをした場合」とあります。上に、変形制というのは、「法が規定する一定期間(1ヶ月、1年、1週間)の総労働時間が、その期間の法定労働時間内に止まる場合には、1日の労働時間が8時間を超え、あるいは、1週間の労働時間が40時間を超えても構わない、という制度です。」と書きました。ですから、1ヶ月単位の変形労働時間制とは、1ヶ月の法定労働時間、すなわち、40時間×30(31)日÷7=171.4(177.1)時間を、 1ヶ月内の各日に、適宜配分する、というやり方の承認です。これによれ ば、隔日16時間制(16時間勤務し、翌日0=休み、16時間勤務、翌日0、という勤務形態、をとれば、平均して1日8時間となる。タクシー運転手さんなどがこの勤務形態です )や23時間勤務・2日休みの形態が可能となります(23という半端な数字をあげたのは、労働時間が8時間を超えた場合には、少なくとも1時間の休憩時間を与えなければならないから、1日の最長労働時間は、23時間が限度だからです)。もちろん、このような規則的勤務形態に限らず、日ごとに労働時間が異なる、たとえば、月の1日目は15時間、2日目は20時間、別の日を減らしたり、休みとする、という形態をとることも可能です。この制度を利用すれば、企業にとっては、1日8時間、1週40時間を超えても、時間外労働にはなりませんから、割増賃金を払う必要はなくなる、という利点があります。
しかも、この制度については、労働時間の上限規制がありませんから、上に例に挙げた1日23時間勤務とか、1週60時間勤務とかいったやり方をとることが可能になります。
ただ、この制度をとるには、
①就業規則あるいは労使協定※1により、この制度を定めること、
②その定めには、1ヶ月の各日について、始業・終業 の時刻(何時から何時までの労働なのか)を明示しておくことが、必要です。とくに、労働者にとっては、日々の労働時間を明示する、②の条件が 重要ですから、この点をきちんと監視しておくようにして下さい。 - Ⅱ.今一つは、32条の3が規定するフレックスタイムという制度です。他の3つが、会社の業務都合に労働者の働き方を合わさせるというものであるのに対し、この制度は、労使協定で、先に示した1ヶ月の法定労働時 間の枠の中で、1ヶ月の「総労働時間」(たとえば、170時間) を決めて、後は、その時間(170時間)の各日への配分、すなわち、その各日につき、何時に出てきて、何時に帰るかの決定を、労働者個人の決定に委ねるという制度です。
この制度は、労働時間の配分を労働者に任せるというものですから、きわめて魅力的に見えますが、どこに落とし穴があるかというと、1ヶ月の各日につき、労働者ごとに、何時に出てきて、何時に帰ったか、要するに、何時間働いたのかがきちんと記録され、実総労働時間が1ヶ月の法定労働時間を超えた場合には、「時間外労働」として、割増賃金が支払われることが保障されていないと、フレックスタイム制という名目の下、ドンブリ勘定で、実際は、定められた総労働時間、あるいは、法定労働時間を超えて働いても、きちんと対応されないで、いわゆる「サービス残業」の目隠しになってしまいます。どんな場合もそうですが、ことにこの制度の場合には、時間管理がきちんとなされていること、が大事であることを見落とさないで下さい。
- Ⅰ.「変形労働時間制」の要件は、きちんと、満たされていますか。
※1. 労使協定というのは、事業場の過半数組合(その事業場の従業員の過半数以上を組織している労働組合)、または、過半数代表者(従業員 の過半数を代表する者)との書面による協定のことを言います。以下、 随所に出てきますので、頭に入れておいて下さい。最も重要な例外は、時間外労働ですが、多岐にわたる論点がありますので、 項を改めて論及します。