労働者のための労働法講座DIY教室

Ⅰ.労働基準法編-3

東京労組顧問・中央大学名誉教授 近藤昭雄

3. 時間外労働

「時間外労働」というのは、1日8時間・1週40時間の「法定労働時間」を超える労働のことです。この時間外労働には、3つの形態※が認められていますが、最も一般的で、汎用性が高いのは、労基法36条が規定する「36協定に基づく時間外労働」ですので、以下、それに関して論及していきます。

●36協定に基づく時間外労働
チェックポイント
①時間外労働協定(36協定)はちゃんと締結されているか
②その内容、当事者は、適正か
③時間数限度は、守られているか
①労基法36条は、事業場の従業員の過半数以上を組織している労働組合
(過半数組合)、そのような組合がない場合は、過半数以上を代表するもの(過半数代表)との間で「書面による協定」(一般に、「時間外労働協定」とか、「36協定」とか、いわれます)を締結し、それを労働基準監督署に届けた場合には、「法定労働時間」(1日8時間・1週40時間)を超えて労働させてもいいと、規定しています。32条の法定労働時間を超えて働かせた場合には、処罰されます(115条)が、36協定を締結し、それに従って働かせた場合は処罰されないということです。ですから、時間外労働をさせるには、36協定の締結が不可欠で、そうでない場合は、基準法違反として使用者(会社、および、現実に違法労働を命じ、労働させた者−労基法9条)は処罰されますし、そのような時間外労働命令にも、従う必要はありません。
厚労省の調査によれば、中小企業では、60パーセント以上が36協定を締結することなく、時間外労働をさせているとのことです。36協定というのは、相当、無力とはいえるものの、時間外労働を認めるか否かを従業員の意思に基づかさせようとするものですから、その締結は、時間外労働コントロールの出発点です。職場を、唯諾々と、企業の違法命令に服従するような環境にしてはなりません。職場の主人公は労働者であることを強く認識し、労働者が労働時間をコントロールするという意識を強く持って欲しいものです。
②36協定の締結当事者は「従業員の過半数」を組織する組合または 代表者です。
ですから、正社員(本工)労働者だけでなく、パート、契約社員等の非正規労働者をも含む、その事業場で働く全従業員の過半数ということです。ですから、多数派組合と称する者が正社員の過半数以上を組織していたとしても、非正規労働者を含んだ従業員の過半数までも組織していない場合には、改めて、過半数代表者の選出手続きをとり、それとの間で協定を締結するのでなければなりません。ですから、この点をきちんとチェックしてください。
また、この「過半数代表者」の選出に当たっては、
イ)先に触れた「管理監督者」であってはならないこと、
ロ)36協定の締結当事者である過半数代表者を選出するためのものであることを明らかにして行われる「投票、挙手等の方法手続きにより選出された者であること」
が必要とされます(労働基準法施行規則6条の2)。これは、過去、会社が管理職などを「指名」して、勝手に過半数代表者をでっち上げ、お手盛りの36協定を締結してきた悪弊を排除するために特に定められたものですから、きちんと守られているか、厳格にチェックしてください。当然、この要件が守られていない36協定は、違法であり、効力を持ちません。
③36協定で定めるべき事柄は、
Ⅰ.時間外労働させる必要のある具体的事由
Ⅱ.業務の種類
Ⅲ.労働者の数
Ⅳ.1日及び1日を超える期間について延長することができる時間
Ⅴ.有効期間
の、5つです。(施行規則16条)
Ⅳの意味は、たとえば、「1日2時間、1週15時間」とか、「1日2時間、1ヶ月40時間」というように、2段階的に、定めなければならないということです。
④時間外の労働時間数については、法文上の直接的規定はありませんが、
労基法 36条2項の規定に基づき、「労働基準法第三十六条第一項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」と題する「厚生労働省告示」(直近のものとしては、平成21年5月29日厚生労働省告示第316号)が出されていて、それによれば、「1日を超える一定の期間について延長することのできる時間数についての限度」は、
1週間−−15時間
2週間−−27時間
4週間−−42時間
1ヶ月−−45時間
2ヶ月−−81時間
3ヶ月−−120時間
1年−−360時
と、定めています。(告示2条)
この時間を超えて定められた36協定は、労基署に届けても、原則、受け付けられないことになっていますので、36協定が届け出られてている職場で、上記時間を超える時間外労働が行われている場合は、基準法違反の違法労働と言うことになります(ただ、上記告示は、上記限度時間を超えて労働させる必要のある「特別事情」と時間数、割増賃金率等について定た場合には、限度時間を超えて労働させてもいいことにされています−同項ただし書)。
時間外労働に対して、きちんと、残業手当が支払われていますか。
時間外労働に対しては、どの形態による場合であれ、通常の賃金に加えて、「割増賃金」が支払われなければ、なりません(労基法37条)。したがって、受け取る賃金は、本来の賃金+割増賃金、となります。
この割増賃金は、算定基礎額×0.25で、計算されます。
この算定基礎額は
  • 計算式
で算出されたものです。
また、臨時に支払われる賃金、1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金=ボーナス、等も、算定基礎額には、入りません。
これら除外賃金は、名称によらず、実質に応じて判断されるべきものとされています。したがって、通勤手当、家族手当、子女教育手当、住宅手当といった名称であっても、たとえば、通勤手当といっても、通勤の距離(通勤費)に応じて支払われるものではなく、あるいは、家族手当といっても、配偶者、第一子、第二子、第三子といった区分によって支払われるものでなく、住宅手当という名称であっても、住宅の種類に応じて支払われるものではなく、それぞれ、一律あるいは定額で支払われるものは除外賃金には当たらないと、されています。
また、この除外賃金は、「列挙」であり、ここに示された以外の手当は、すべて、算定基礎額に含まれます。
この割増賃金の支払いは、いい加減にされていることが多く、いわゆる「サービス残業」が横行していますので、監視の目を強めて下さい。
「割増賃金」は「深夜労働(深夜業)」に対しても、 支払わなければなりません。
深夜労働というのは、午後10時から、翌朝の午前5時までの時間帯における労働のことで、この時間帯に労働に従事した場合には、常に、25パーセントましの手当が支払われなければなりません。この手当は、この時間帯における労働の変則性、過重性に着目して支払うべきものとされているですから、たとえ、通常労働として行われた(時間外労働ではない)場合であっても、深夜労働手当の対象となります。したがって、時間外労働が深夜時間帯に及んだ場合は、0.25+0.25で、5割増しとなります。

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