労働者のための労働法講座DIY教室

Ⅰ.労働基準法編-7

東京労組顧問・中央大学名誉教授 近藤昭雄

7. 賃金

労基法は、賃金については、その支払い方法を中心に定めています。 賃金支払い方法については、以下のような原則が定められています(24条)。

①通貨払いの原則
日本国内で通用力のある貨幣で、支払われねばならないということ。したがって、小切手での支払い(退職金については、認められます)や、ドル建てでの支払いは、許されません。ただし、労働協約で規定した場合(24条①項ただし書きは、「法令」に定めがある場合も、あげていますが、現時、そのような法令はありませんので、例外は、協約で定めた場合だけになります)は、「通貨」以外のもので支払うことができます。しかし、一般には、利用されてはいないようです。
また、施行規則で定められた、銀行振り込みによる支払い※も認められます。
②直接払いの原則
これは、賃金は、直接、労働者本人に支払われるべきことを定めたものです。ですから、債権者(借金取り、等)はもちろんのこと、たとえ両親であっても、支払うことは許されません。この原則については、例外はなく、賃金が、直接、労働者の手に渡るべきことが保障されています。ただ、労働者が病気入院等のため、受領しに来られない場合に、その家族等の「使者」に支払うことは、許されます。
③全額払いの原則
労働者が支払い請求権を持つ賃金の「全額」を支払わねばならず、使用者が、労働者の賃金から、勝手に、何らかの金員を差し引くようなことは、許されないということです。したがって、たとえば、使用者が、労働者にお金を貸していて、その返還を請求できるような場合でも、賃金から、勝手に、返済金を差し引くことは、できません。労働者が、欠勤したような場合、その分の賃金請求権はありませんから、その月の賃金から賃金カットすることは、当然許されます。しかし、当月はカットせずに全額を支払って、その過払い分を翌月以降の賃金からカットするのも、原則、許されません。ただ、その額が大きくなく、純粋に、過払い分の調整という性格に止まる場合には、そのような便宜的措置も、認められることになっています。
この原則には、例外があって、br> イ)法令に定めがあるもの(税金や社会保険料の球給料天引きなどがこれに当たります)、ロ)過半数組合、あるいは、過半数代表者との間に、書面による協定が結ばれた場合に、その協定(一般に、24協定といわれます)で定められたものを控除することが、認められています。(以上、24条①項)
④毎月1回・定期日払いの原則(24条②項)
賃金は、毎月1回以上、前もって「給料日」と定められた特定の日に支払われねばならないという原則です。
⑤24協定と組合費のチェックオフ
組合費のチェックオフは、「労働協約」に基づいて行われるものですが、最高裁によれば、それとは別途に、24協定が必要であるとされています。この最高裁判例に悪のりして、「少数組合とチェックオフを実施するのは、労基法違反だ」とか、「少数組合とは、チェックオフできない」とか言う使用者があります。しかし、全額払いの原則は、使用者が、勝手に、給料からアレコレのものを差し引いて、労働者の手取りが少なくなって、ひいては、生活に困窮する結果になってしまうようなことになるのを防止しようとするもので、賃金からの控除は、過半数労働者の同意を条件とするとの縛りをかけているものです。ですから、過半数労働者が認めれば、たとえ、少数組合に対してであれ、チェックオフは可能となるものです。そこで、
  • イ.職場に、少数組合しかない場合には、使用者に対して、過半数代表者の 選出を求めましょう。使用者がそれをやらない場合には、自分たちで、従業員に呼びかけ、過半数代表者の選出をやりましょう。使用者がそれらを妨害するとしたら、それは、不当労働行為です。また、一般に、親睦会費や会社貸付金の返済金等について、24協定が締結されているのが通例です。したがって、既存の24協定に組合費のチェックオフを追加すればいいことで、それを拒否するのは、会社と過半数代表者双方の不当労働行為です。
  • ロ.多数派組合があって、それがすでに24協定を締結している場合には、 その協定に基づいて、少数派組合も、チェックオフを実施することができます。24協定というのは、上に述べた趣旨で定められたものですから、1本で十分です。会社が、その24協定に基づいて、多数は組合についてのみチェックオフを実施し、少数派組合に対してはチェックオフを拒否するというのは、「組合間差別」としての不当労働行為になります。

※ 銀行振り込みによる支払いについては、
Ⅰ.労働者の「同意」に基づいて、
Ⅱ.労働者の指定した口座に振込まれるべきこと、
Ⅲ.給料日の正午までには、引き下ろし可能な状態にあること、
等が、必要とされています。

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